聴力の加齢性変化と補聴器の必要性
ご高齢になると、体のさまざまな機能が低下しますが、聞こえもその一つです。加齢による聴力の変化は、音を感知する内耳だけでなく、音を判断する脳の機能にも影響を及ぼします。聴力低下の程度には個人差が大きく、80代や90代でも若い頃と変わらない聴力の方もいれば、60代で補聴器が必要になる方もいます。
加齢性変化による聴力低下は、治療による改善が難しい場合が多く、聞き間違いが多い、テレビの音量を大きくしないと聞こえないなどの支障が出てきた場合には、補聴器の検討が必要になります。
補聴器に対する誤解と適応への道のり
一般的に、補聴器の評判はあまり良くないのが現状です。「高価な補聴器を買っても聞こえが良くならない」「うるさくてつけていられない」「自分の声が響く」といった不満から、結局使われずにしまい込まれてしまうケースも少なくありません。
これらの問題は単純ではありませんが、まず理解すべきは、高齢者が補聴器を使って音を聞くことは、若い頃の聞こえに戻るのではなく、「補聴器を介した新たな聴力を獲得する」ということだという点です。これは、義足をつけてもすぐに十分な歩行ができないように、補聴器も慣れるまでに根気強いリハビリが必要であることに似ています。
加齢とともに内耳の機能が低下し、脳に音の情報が伝わりにくくなると、脳は音に対して過敏になり、補聴器で大きな音を聞くと不快に感じることがあります。また、長年聴力が低下した状態が続くと、脳の言葉の判断能力も低下するため、補聴器で音を入れてもすぐに言葉の判別が改善するわけではありません。このため、初期には「音はうるさいのに言葉が分からない」と感じ、補聴器を外してしまうことがあります。
補聴器活用の成功と生活の質の向上
しかし、補聴器は継続して装用することで、徐々に音への慣れや言葉の判断能力が改善し、数週間から数ヶ月で効果を実感できるようになります。この期間、ご本人やご家族が毎日できるだけ長時間補聴器を使い続けるように励まし、サポートできるかどうかが、補聴器活用の成否を分けます。
補聴器がうまく活用できるようになると、会話がスムーズになり、ご本人だけでなく、ご家族や周囲の人々にとっても大きな喜びと満足が得られます。これは、コミュニケーションの大切さとその価値を再認識する機会にもなります。補聴器が適切に活用できるかどうかは、老後の生活の質に重大な影響を及ぼすのです。
当院では、無理なく補聴器に慣れていただけるよう、活用状況の把握や効果の確認を行い、きめ細やかな調整を重ねています。その結果、多くの患者様に満足のいく補聴器使用を実現しています。聞こえにくいことを年齢のせいだと諦めず、ぜひ当院にご相談ください。